FTMの妻、AIDの現場から。

33歳♀東京在住。AID(非配偶者間人工授精)に挑戦する夫婦の記録です。

【番外編】夫のとある発言

以前、少し触れたことがあるけれど、

私の夫はなんというか、

楽観主義ともまたちょっと違うんだけれど

物事を必要以上に複雑に考えないタイプの人だ。

「こう」と決めたらそこに向かって一直線。

一度決めたことはやり通すという考えの持ち主で。

私自身はわりと、ああでもない、こうでもないと

うじうじ悩んでしまうタイプなので、

(しかも大半は、悩んだってしょうがないこと)

こういう相手だととても助かっている。

 

この夫が、AIDに臨む私にかけた言葉がある。

 

「今度のドナー、イケメンだといいね!」

 

私はこの言葉に、一気に肩の力が抜けたのを覚えている。

のんきか!笑

思わずツッコミを入れた私に彼は「え?」なんて言っていたけど、

「まあそうだよね、それくらいカジュアルにとらえていたほうが

余計な心労がなく臨めるよね」と思ったりもした。

振り返ってみれば、彼のこうした発言は私にとって

深刻にとらえすぎていた心の緊張をほぐしてくれる

良いきっかけになっていたんだろうなあと思う。

 

もちろん、決して命を軽く考えているわけではないし、

夫自体そんな意味を込めたわけではまったくないけれど。

助けていただくドナーの方に日々感謝しつつ、

毎日を明るく楽しく過ごせたらなと思う。

AIDを考えているあなたも、

そして一緒にがんばっているあなたも。

 

※なお、ドナーは基本、

ボランティアで協力してくださっている方だと聞いた。

献血や死亡時の臓器提供とはまた違って

センシティブな問題も少なからずはらんでいるこの治療に

協力してくださるドナーの方は本当に貴重だと思うし、

私たちのような自然には妊娠できない人間からしたら

感謝してもしきれない存在だ。

私も、生きているうちに自分が誰かの役にたつ方法はないかと

日々考えずにはいられない。

このブログも、そんな気持ちからはじめたことのうちのひとつだ。

【経過報告】

またまた時間があいてしまいました。

ブログを読んでくださっている方が増えていることは

はてなブログからの通知やコメントをいただく方々のおかげで

実感してはいるのですが、今、正直仕事で忙殺されており

こんなありさまでございます。

気がつけば、東京はもう、初夏の陽気です。

さて、前々回、施術を開始したという記事をUPしたので

その後の経過を気にしていただいている方がいらっしゃるかもしれません。

妊娠したの?してないの?

残念ながら、答えはNOです。

 はじめてのことだったので、ちょっと生理が遅れたくらいで

「もしや!?」と思ったし、生理が来ても

着床出血では!?」なんて都合よく思ったり。

でも、そんな簡単にはいかないのでした。

そりゃそうだ。

自然妊娠だって20〜30%だって言われているのに。

はじめて、かつ人工授精。

そううまくはいかないよね、と。

 

 

そんなこんなで、その後何度か施術をお願いしようと

病院に通ったのだけど、その後はなぜか

ホルモンが安定せず、正しく排卵がなされない状態になり、

結局2回めの施術には至っていない。

(これについては別の機会に詳細を書こうと思ってます)

それがいまの状態です。

 

仕事もめちゃめちゃ忙しかったし、

仕方ないかなというのが最近の所感。

ちょっと疲れてしまったのでちょうどよかったかもしれません。

 

 

道のりは簡単ではないと覚悟はしていたから。

ゆっくり、のんびり、焦らずにいこうと思います。

【番外編】AID治療の自助グループの集まりに参加してみた。

 

またまた番外編です。

このブログではすべての機関において特定の固有名詞などは

敢えて伏せていますが(分かる人には分かると思いますが)、

もし個人的に教えてほしいという方がいたら

コメント欄で個別に聞いていただければ

その情報をシェアすることも全然いとわないので気軽にどうぞ。

(その際はメールアドレスの記入をお忘れなく!)

 

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以前の記事

【準備期間】一番の味方は、地元の先生かもしれない。

でも書いたのだが、

自分の中に”ひっかかり”があることに気づいた私は、

病院で紹介されたとある自助グループの勉強会に

夫婦で参加することにした。

 

この団体は、AIDによって子供を持った、

あるいは持とうと考えている人のためのための自助グループ

運営自体も、ボランティアスタッフの方々によって行われている。

年に数回開かれるこの勉強会では、

当事者の方々による体験談や、ゲストスピーカーの講演、

参加者同士の意見交換などが行われる。

 

私が参加した会には、全部でおよそ40名ほどの方が参加していた。

ほとんどが男性不妊による妊活をされている

(または検討している)方のようだが、

私と同じ境遇かな?と思われる方も数組いた。

(同じ境遇どうしだと、なんとなく雰囲気で感じるものがある)

 

まずはゲストスピーカーの方のお話から。

この日は児童養護施設の所長の方で、

血縁関係のないこどもを家族として迎え入れることについての

お話をしてくださった。

 

養子という考え方は、

私たち夫婦にも何度か話にのぼったことがある。

私はFTMの彼との結婚を決めたうえで、

子供がほしいと思っている。

その本当の理由はなんだろう?と深掘りした時に

自分の子供であるなら、養子という選択肢もあるのでは?と。

 

けれど考えた結果、

単に「子供が好きだから」ということだけではない、

やはり自分の血のつながった家族を持ちたいという

おそらくこれは、これ以外に説明がつきようもない

本能のようなものだと認識したため、

まずは可能性があるのならと、AIDを選んだのだった。

 

この所長は、ご自身でも、養子として何人も

子供を自分の家族として迎え入れているそうだ。

どの子どもたちも平等にかわいいし、

血縁関係に関係なく、心から愛しているとおっしゃっていた。

本当にすごい方がいるのだなあと思った。

ただ、その方も言っていたが、

海外では養子ももはや一般的に受け入れられており

(例:アンジェリーナ・ジョリー

日本ではまだまだ偏見や社会的な保障など

すべての点において遅れているということだった。

 

所長のお話でいちばん響いたのは、

子供を持つということが

決して親目線だけであってはならないということ。

児童施設から養子として家庭に送られる場合はあくまでも、

親が子供がほしいから、ではなく

今生きているこの子を幸せにしたいから。

という視点を持っているかが大前提となるという。

それはまったくそのとおりだなと思った。

「養子という選択肢もあるな」と考える事自体が

そもそもおこがましいのかもしれない。

 

養子にしても、AIDにしても、はたまた自然妊娠にしても。

すべてにおいて言えることだと思う。

子供がほしいと願うのは至極当然な欲求でありつつも、

それだけが目的になってはいけない。

生まれてきたすべての子供には一人ひとりその子の人生があって

どんな手段だとしても親になったらその時点で

その子の人生に責任を持たなければいけない。

あたりまえなんだけれど、うっかりすると忘れてしまいそうな

この視点に改めて気づかせてくれたのはこの所長のお話だった。

 

その後は、AID体験者の方々(多くはボランティアスタッフの方)が

みずからの苦しかった思い、決断に至るまでの葛藤、

晴れて子供を迎え入れた喜び等々を生の声で届けてくださった。

中には、過去のことを思い出して声をつまらせる方もいて、

みなさん本当に大変な思いを乗り越えてきたんだなあととても勉強になった。

男性不妊と診断された時の衝撃も、察するに余りある。

境遇は違えど、大人になって結婚したら当たり前に

子供ができて親になれると思っていたのに、

その道が残酷にも閉ざされてしまったとしたら。

その悲しみは、私自身も深く共感するところだ。

 

その後予定されていた座談会には参加できなかったが、

治療の前にこういった会に参加できたことはとてもよかったと思う。

AIDを検討されている方、まだ決心がつかない方は、

こういうところからはじめてみるのもよいと思う。

【いよいよ施術開始!】想像以上に機械的で拍子抜け。

 

またまた更新が止まっておりました。

年度末、年度はじめに仕事でいろいろあって

いろんなことへの気力を失っていたのだけど、

最近とてもうれしいことにコメントをくれる方が増えて

ブログを書こう!と思えるようになりました(ゲンキン)。

みんな本当に悩んでいるんだなあ…と痛感するとともに

やっぱり思うのは、FTMをはじめとした

LGBTの当事者たちのためのコミュニティはあっても、

そのパートナーのコミュニティというのは

まだまだ少ないのだなということ。

私自身、この件について話せる相手が

病院の先生しかいないので、

「私も!」と声をかけてくれるだけですごく励みになるしうれしいです。

ゆくゆくは、オフ会みたいなことも

できたらきっとすごくイイだろうな、なんて思うけど

ビビリだからもう少しだけ様子を見ようかな、という今日この頃。

 

さて、今回はいよいよ始まったAID治療のことを書こうと思います。

私はこのブログで「施術(せじゅつ)」という言葉を使っているのだけど

これは正式な呼び方ではなく、先生や世の中のAIDを受けている方々は

おそらく「受精」と言っているみたいです。

私はなんだか「今月の受精日は…」とか

「今日、無事受精してきたよ」とか言うのが

とんでもなく生々しいなと感じて、

はじめからずっと「施術」と言ってます。

合っているのかはわからない。

でも、やっぱり受精はイヤなので

「施術」でいかせていただきます。

ではでは、スタート。

 

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2周期分の準備期間を終えて3周期めの生理の後、

例によってお手紙で来院予約をとる。

予約がとれると同意書が送られてくるので、

それに夫婦でサイン+拇印を押して

その周期の排卵予想日に合わせて来院。

(具体的な来院日はこのタイミングで別途電話で予約する必要あり)

 

正直、はじめての施術の日は

なんだかものすごくメランコリーな状態にあった。

「ああ…いよいよだ」

「まったく赤の他人の精子を、この体内に迎え入れるんだ」

「こんなことをする私の運命は、いったいなんなんだろう」

などなど、頭と心の中に充満する不安と葛藤で

船酔いのような感覚になっていた。

 

しかし、すぐにそれは取り越し苦労であったと気づき、

鬱々とした気分はあっという間に吹き飛んでしまうのだった。

と、いうのも、AIDのこの施術、実に機械的に行われるのだ。

先生に卵の大きさをエコーで調べてもらい、

受精可能というジャッジが下ると、

別の処置室で「排卵誘発剤」を肩に注射してもらって待機。

しばらくすると数人分の番号が一気に読み上げられ

順番に施術室に入るよう促される。

私が受けた時でざっと5人は同時に受けていたと思う。

もちろん、FTMということではなく、

男性不妊による妊活中の方々が大半だと思う。

不妊治療を受けている人は多いと聞くけど、

本当にそうなんだなあ…と実感した。

 

施術自体は10分もかからない程度で、

おそらく「卵管造影検査」の時に

管を通すために使用した器具を入れて

子宮内に精子を注入するだけ。

スタイルは違えど、仕組みとしては

性交渉による通常の受精と何も変わらない。

もともと理解していたことではあるが、

実際に体験してみるとあまりにもあっけなくて

なんだかものすごくホッとしたのを覚えている。

なんなら、素性も知らぬドナーの方に

心から「ありがとうございます」という気持ちさえ芽生えていた。

 

施術が終わると、すぐに支度をして退室してOK。

少し前までは、施術のあと10分〜30分程度

安静にしていることが義務化されていたそうが、

これには医学的に特に意味がないということがわかったのだという。

私は挿入した器具による鈍い痛みを感じていたため

ほんの数分だけ横にならせてもらっていた。

看護師さんは「大丈夫になるまで、ゆっくりしてくださいね」

と言ってくれた。

 

施術室を出たら、そのままお会計をして

処方された抗生物質を受け取って帰宅。

抗生物質は子宮に器具を入れた際に感染症などがおきないよう

念のため渡されるものだ。

やはり感染症予防のため今日は湯船には浸からないようにと

言われたこと以外は、特段気をつけることなく

ふだんと同じ日常を過ごしてよいとのことだった。

そりゃそうだよね、

セックスしたあと◯◯しちゃダメ、とかないもんね。

そんなことを思いながら病院を後にした。

 

その頃にはとっくに気分は晴れ、

なんだかひと仕事終えたような気分になって職場へ向かったのだった。

 

かかった費用:

33,761円(診察、注射、施術、投薬代含む)

※ちなみに現在では料金改定により約3倍なっているので注意

 

【準備期間】一番の味方は、地元の先生かもしれない。

 

また少しだけ番外編。

 

施術してもらうには、卵が十分に育った状態

(20ミリほどで、まさに排卵寸前のタイミング)に

病院へ行く必要がある。

 

もちろん、自分で基礎体温表などから判断したり

排卵検査薬などを使った自己チェックでもかまわないし、

病院へ行ってエコーで確認(いわゆる卵胞チェック)

してもらうのでもよいのだが、

いかんせん大きな病院のため、

いちいち再診料が診察費とは別に

2,000円ほどかかってしまうのと

わざわざ出向くのが手間なため、

地元の産婦人科に卵胞チェックをしてもらって

施術日を決めることも可能だ。

 

私も、月経不順で何度かかかったことのある地元の先生に

卵胞チェックをお願いすることにしていた。

準備期間であるはじめの2周期の間に、

自分の身体のサイクルを知っておきたかったのもある。

 

一般的に「卵胞チェック」をするのは、

妊活の初期段階で「タイミングをとりたいので

排卵日を特定したい」という場合が多い。

先生になんとお願いするのがよいか

あまり深く考えていなかったせいで、すぐにボロが出てしまった。

「なぜ排卵日だけが知りたいのか」とするどく突っ込まれた。

不妊治療なら、ステップがあるので、まずはホルモン検査からしてはどうか。

先生は私の行動が理解できないようで、少しイラだっていた。

私は、想定していなかった方向に話が進んでしまったことへの焦りと、

AID治療について、またFTMである夫についてのことを

この眼の前にいる先生に話すべきかどうかを逡巡していた。

 

「えっと…実は不妊治療で別の病院にかかっていまして…」

しどろもどろになる私の異変に、先生はすぐに気が付きこう言った。

「あのね、診察というのは信頼関係で行うものだから。

ちゃんと相談することが重要なんだから、

包み隠さず全部話してもらわないと」

 

観念した私はすべてを話した。

話しながら、ほとんど半べそをかいていた。

思えば、ここまで詳細に夫や夫婦の子どもに対する考え方を

三者に語ったのは、この時が初めてだった。

実は、夫がFTMであるということは、

仲の良い友達はおろか、自分の両親にすら伝えていない。

結婚を祝福してくれた大切な家族にも

どこかで隠し事をしていることへの罪悪感も、

結婚当初からずっとあった。

孫の誕生を心待ちにしている両親を思うと胸が痛い。

 

涙をおさえながら話す私の姿に、

先生は一瞬戸惑いの表情を見せたけれど、

すぐにこう返してくれた。

「私は偏見も持っていないし、なんとも思ってないから、まずは安心してね」

そして、厳しくも温かい口調で、次のような話をしてくれた。

 

「普通に結婚している夫婦だって子どもができないこともあるし、

逆に子どもができたとしても、別居してしまったり離婚してしまったり

夫婦や子どもにとって必ずしも幸せではない状況になることだってあるじゃない?

だからね、どんな方法だったとしても、

生まれてきてくれた子どもに最大限愛情を注いで

大切に大切に育てて一緒に人生を歩んでいってあげればいいと思うの。

それぞれの家庭にいろいろな事情があるから、

そういう選択も私はまったく否定しないし、

むしろ胸を張って、しっかり準備をした方がいいと思う。

いいのよ。赤ちゃんがあなたのもとに来てくれれば。

方法なんてなんだっていい。ほら、どっしり構えて。

あなたがしっかりしないでどうするの!

子どもを授かるって簡単じゃないんだから。ね!大丈夫よ」

 

まるで母の大きな愛に包まれているような感覚になり、

話を聞きながら涙が止まらなかったのを今でも覚えている。

この時まで私はおそらく、ずっと心にあったしこりを

取り除けずにいたのだと思う。

 

本当にAIDの施術に進んでいいのかな?

FTMの彼と結婚するという道を選んだのは自分なのに、

それでも子どもがほしいと願うことは、

私のエゴではないかな?

もしも子どもが生まれてきてくれた時、

私はちゃんとその子を愛せるかな?

彼は本当に心から納得してくれているのかな?

周囲の人に気づかれないかな?

後ろ指さされないかな・・・・・

 

夫婦の間では、あんなにもたくさんの議論を重ねてきたはずなのに、

やはりどこかで、不安と後ろめたさがあったのだと思う。

先生と話したあと、心が少しだけ軽くなったように感じた。

 

先生に笑顔で送り出された私は、

病院を出てからも泣きながら街を歩いた。

そして、決意した。

自分の中でちゃんとこの問題を消化してから施術に臨もうと。

 

そう思って、まずはAID経験者でつくられた

自助グループの勉強会に参加した。

(この様子については追って書こうと思う)

さらに、臨床心理士のいるカウンセリングルームを予約して、

今自分の心にある不安な気持ちを、洗いざらい全部話した。

(この時も、涙をこらえるのに必死だったなあ…

臨床心理士の先生はいたって冷静だったけど。笑)

そして、話したこと、自分の中に生まれた感情、

すべてを夫にも逐一共有した。

夫はというと、自分がとっくのとうに納得していたことを

当初はなぜ私がいまだに悩んでいるのかがわからないようで、

イライラしている様子を見せることもあった。

わかってる。彼にとって、この問題を深掘りされることが

どれほど心にダメージを与えてしまうことなのか。

でも、私がめげずに正面からぶつかると

ようやく私の気持ちに寄り添ってくれ、

またいつものように私の不安を取り除いてくれた。

 

そんなことを経て、きちんと心の整理がついて

「もう大丈夫!」と思えたのは、

「登録」からおよそ2ヶ月後のことだった。

なるほど、準備期間の2周期っていうのは

なかなか計算された期間なのかもしれない。

 

なお、さきの地元の婦人科の先生には後日、

AIDを受けている病院から書いてもらった紹介状を渡し、

必要な役割をしっかりと認識していただいた。

いまでは同じ「プロジェクト」を成功させるための

チームメンバーのようになり、

私にとって一番心強い味方になっている。

これからAIDを考える方にはぜひ、

こういう相手を身近に作ることを強くおすすめしたい。

精神の安定度がまったく違う。

 

さあ、ようやく施術だ。

胸をはって進もう。

大丈夫、もう私は迷わない。

 

 

【予約】連絡方法は古風に”お手紙”で。

 

「登録」が済んだら、はれてAIDの施術を受ける権利を得る。

生理が来る度に病院へ連絡し、予約が取れた場合には

その周期の排卵日付近に病院へ行って卵の状態がよければ施術、

という流れになる。

 

この「予約」、連絡の方法が少々古風だ。

このご時世になんと「お手紙」の形式をとっている。

おそらく理由はAIDの同意書が「返送」されてくることにあると思うのだが、

データで送ってプリントアウトすればよいわけだし、

メールでもよいのでは…といつも思う。

 

「お手紙」のやりとりから施術までのステップはこんな感じ。

 

1)生理が来たら、便箋に必要事項を記入して、

 返信用封筒(切手を貼った状態)とともに封筒へ入れて郵送。

2)予約がとれた場合には返信封筒に同意書が

 2枚(提出用/保管用)入った状態で送られてくる。

3)排卵日の2日前ぐらいに電話で予約を入れ直し

 同意書に署名+拇印を押した状態で提出。

4)卵が十分に育っていればそこで施術。

 

ちなみに、前回書いたように

「登録」から2周期分は、

「お手紙」を送ることは求められても

予約はとれないことになっていると告げられていたため、

「今回は予約をおとりすることができませんでした」という

メッセージを、自分の封入した返信用封筒で受け取った。

 

そして「登録」から3周期目の生理が来て、

お手紙を出すと、はじめて同意書が2枚送られてきた。

いよいよ、施術の日が迫ってきたということだ。

高まる期待と不安。

 

【私たちのこと】なぜAID治療が必要になったかの話。

 

今日は、具体的な治療の話ではなく、

なぜ私たち夫婦がこの特殊な妊活をするに至ったか。

その話をしたいと思う。

 

結論から言うと、私の夫はFTM、つまり性同一性障害の当事者だ。

 

FTMの彼と私の間に、両者の血が繋がった子どもを授かることは

物理的に(いや、生物学的に?)不可能だ。

普通、妊活をする場合は段階を経るので、

さまざま選択肢がある中で選んだ先がAIDということになるけど、

私たちの場合は違う。

はじめから不妊治療、はじめからAIDだ。

(子どもを持たないという選択について&養子という道については

機会があれば考えを書きたいと思う)

 

結婚する前から、ドナーによる精子提供で人工授精することは決めていた。

実は当初は、彼の親族(義父、義兄弟)からの提供をと考えていただけど、

結婚してみるとそれは難しいなとすぐに実感した。

提供者になるであろう人に出会う前と出会った後では、

考え方はまるで変わってしまったのだ。

 考え方は人それぞれなので親族間の精子提供を否定するつもりはないけど、

義理の家族となり普通に接している人から精子提供を受けて

それを自分の体内に入れるという行為は、私にとっては

あまりに受け入れがたいことだった。

見ず知らずの誰かの場合に比べて、遥かに抵抗感がある。

 

私はずっと子どもが好きで、将来はあたりまえに結婚をして、

あたりまえに子どもを授かると思って生きてきた。

だから、夫との結婚を考える際、子どものことを思って

躊躇する気持ちが無かったといえば嘘になる。

でも、私の背中を押してくれたのは他でもない、夫自身だった。

 

彼は本当に、こちらが拍子抜けするくらい

自分の身に起こっていることをあまり大ごとに捉えない人で。

これまで歩んできた人生のこと、

今の状態になるまでにしてきた治療のことについて、

それはそれは淡々と、ただ冷静に話してくれた。

子どもについても、自分を卑下するのでも、

いたずらに不安を煽るのでもなく、

「今はこういう治療があってね、」

「最近の判例ではこういうことがあってね、」

などなど、彼の知りうる知識をただ丁寧に教えてくれた。

これが私にとってはよかったんだと思う。

 

私の不安も次第に薄れていき、

また思っていることや自分の希望も素直に話すことができ、

とてもスムーズに話が進んだことを覚えている。

うまくいかないことを嘆くのではなく、

それを受け止めてじゃあどうしようかと、

前向きに未来を見つめる彼の考え方は、今でも尊敬している。

彼の人生を思うと、本当に強い人だなといつも思う。

 

そんなわけで、結婚前から決まっていたAIDに

予定通りに進んだというのが今の状態だ。

このポストを機に、

同じ境遇のどなたかが読んでくれるといいなと思っています。

正直私は、FTMの妻であることも、

それによる不妊治療、ましてや倫理的側面から

度々議論されるようなAIDの治療を受けていることも

気軽に話せる人は周りに一人もいない。

とても仲の良い友達も、私のことを、

ふつうの男性と結婚して

いずれは子宝に恵まれるであろうふつうの人と思っている。

私が選んだ道だから、もちろんそれでいいんだ。

いいんだけど、たまには気を使わずに話せる相手がほしいなって

思ったりするんだなあ。

 

コメントやメッセージ、ぜひぜひお気軽に。

よろしくお願いします。